東京を離れる時、
私はもう、
迷っていませんでした。
音楽を辞める。
東京を出る。今なら
、
逃げることもできたと思います。
それでも、
私が選んだのは、
実家を継ぐと決めて帰る
という選択でした。
父はいない。
それは、
誰にも覆えない現実です。
母と叔父が旅館を切り盛りし、
お弟子さんが現場を支えている。
でも、
このままでは、
「続けているだけ」になります。
誰かが、
次の責任を負わなくてもいい。
その役割が、
自然に自分へ向いてくることは、
ずっと分かっていました。
ただ、
それを真正面から考える覚悟が、
できていなかった。
音楽は、
好きでした。
逃げ場でもあり、
自分で選んだ世界でもありました。
それでも、
父がいなくなった家。
借入を抱えながら商売は続く。
町と向き合う現実。
そこから目を逸らし続けることは、
もうできなかった。
だから私は、
実家を継ぐと決めました。
誰かと言われたわけではありません。
頼れたわけがない。
自分で決めた。
実家へ戻る道中、
不安がなかったと言えば、
嘘になります。
自信も、
準備も、
十分ではありませんでした。
ちなみに、
逃げ道を残したまま帰るのと、
覚悟を持って帰るのでは、
意味が違います。
私は、
後者を選びました。
旅館の敷居をまたいだ時、
そこは、
子どもの頃いた場所とは
まったく違って見えました。
守られる側ではない。
期待されるだけの立場がある。
これからは、
自分が背負う側になる。
その感覚だけが、
はっきりとありました。
音楽を辞めたことに、
後悔はありません。
そう思いました、
私は、
この決断を
慎重には扱っていませんでした。
実家を継ぐ。
それは、
仕事を考えることではなく、
家の時間を検討することでした。
ここから先、もう一度
、
現実の中で
人生を作り直し。
その覚悟を持って、
私は帰ってきました。
これから、お母さんと言う事はなくなり女将に変わりました。