音楽を続けていく中で、
私は、福岡という場所に限界を感じ始めました。
実力の問題というより、
情報も、人間も、すべて
が、
もっとある気がしていた。
音楽をやるなら、
東京だ。
そう思い、
私は福岡を離れました。
東京は、
刺激にあふれた場所でした。
人の数、
音の種類、
夜の長さ。
夢を追う人が集まり、
同時に、
何かに飲み込めそうな空気もあった。
チャンスは、
確かにありました。
声をかけられることもあり、
ステージに立つ場面も、
ゼロではなかった。
「もう少しで届く」
そう思える距離に、
夢はありました。
しかし、
そのすぐ隣に、
展望がありました。
夜の街。
簡単に手に入る刺激。
一瞬的なつながり。
自由な世界は、
自分を律する力が必要で、
簡単に人を緩めます。
私は、
少しずつ、
音楽よりも遊びに時間を使っていました。
そして、
もう一つ、
決定的な出来事がありました。
彼女に、
ふられたのです。
彼女は、
東京で出会った恋人ではありません。
松浦の、同じ産婦人科で生まれ
た幼馴染。
物心つく前から、
同じ場所にいて、
同じ時間を生きてきた人でした。
「いつもそこにいる」
それが、
疑いようのない前提だった。
だから、その別れは、
静かで、はっきりしていました。
責める言葉はなく、
感情的なことはありません。
ただ、
「もう無理」
そう断言されただけです。
その言葉は、
恋人としてというより、
人生を知っている相手からの判断
のように感じました。
音楽に本気になっていないこと。
生活が定まっていないこと。
自分の足で立てていないこと。
一番ごまかせない相手に、
見られた気がしました。
まず、
それが一番、こたえました。
東京での生活も、
音楽も、
そして彼女との関係も。
すべてが同時に、
揺らいだ。
この時、
私はまだ、
音楽を辞めるとは決めていません。
ただ、
自分がどこに向かっているのか、意識を
失っていた。
夢を追うこと、
自分を律することは、
別の力が必要だ。
そのことを、
この頃、
初めて思いました。