《第2話》北九州で、すべてを失ったあとに残ったもの

《第2話》北九州で、すべてを失ったあとに残ったもの


北九州にあったものは、
すべてなくなりました。

自宅も、
車も、
店舗も、
不動産も。

長い時間をかけて積み上げてきたものが、
一つずつではなく、
一気に手を離れていったという感覚でした。

抵抗できなかったわけではありません。
何もしなかったわけでもありません。

ただ、
結果として、
何一つ残らなかった。

その事実だけが、
はっきりと残りました。

北九州という場所には、
仕事の記憶も、
判断の記憶も、
誇りだった時間もありました。

同時に、
失敗の痕跡も、
後悔も、
戻れない選択も詰まっていた。

だからこそ、
そこに留まる理由は、
もうありませんでした。

私たちは、
福岡へ引っ越しました。

前向きな決断だったとは言えません。
再スタートという言葉を使うには、
あまりにも現実的でした。

ここを離れなければ、
 前に進めない。

それだけの判断です。

引っ越し当初は、
生活を整えることで精一杯でした。

段ボールの山。
最低限の家具。
見慣れない景色。

過去の話をすることも、
未来の話をすることも、
どちらもできない時間。

それでも、
家族はそこにいました。

二人の息子がいて、
同じ屋根の下で、
同じ夜を過ごしていた。

何も持っていなくても、
「一緒にいる」という事実だけは、
失われていなかった。

北九州で失ったものは、
目に見えるものばかりです。

信用も、
肩書きも、
立場も。

それらが剥がれ落ちたあとに、
残ったのは、
逃げられない現実と、
家族だけでした。

この時、
私はまだ、
立ち直ろうとはしていません。

希望も、
展望も、
語れる状態ではなかった。

ただ、
終わらせきれなかった。

終わらせてしまうには、
背負っているものが、
まだ残っていた。

福岡での生活は、
そうして始まりました。

何かを始めるためではなく、
終わらなかった人生を、
 続けるために。

(写真は福岡に引っ越した初日の寝顔です)

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